依存症と犯罪
◎依存症と犯罪
依存症とはWHO(世界保健機関)の定義を要約すると、ある特定の快感を覚える何かを繰り返すことで、「やめたくても、やめられない」状態になることです。さらに強い刺激が欲しくなり何よりも優先して繰り返さないと耐えられない状況になります。精神科で扱う疾患でもあるので誤解されがちですが、脳という臓器が罹患する極めて肉体的な病気といわれています。
また、薬物使用、万引き、盗撮や下着窃盗、痴漢行為、わいせつ行為等を繰り返すことによって脳の状態が変化し、自分で自分の欲求をコントロールできなくなってしまいます。その行為を考え始めると実際にした時の緊張感や快感がよみがえり、抑えきることが出来ないために犯罪行為に走ってしまいます。結果的に家庭生活や社会生活に重大な影響を及ぼすようになります。
社会生活をしていくうえで私たちはひとり一人が法律を守ることで、地域の秩序を維持する地域の共同体の一員として安心して生活をすることができます。法律を守ることは自分の生活の中で優先すべき大切な活動です。ところが依存症になると法律を守りたくても守れなくなるようになります。「やめたくても、やめられない。わかっちゃいるけどやめられない。」状態になるのです。家庭生活でも同様のことが言えます。
薬物犯罪、性犯罪、窃盗(万引き)などの犯罪の再犯率の高さが物語っていることは、依存症の治療や回復の取り組みを抜きに再犯の防止は難しいということです。もし、薬物依存症の方が刑務所等の矯正施設で更生に向けた取り組みを何年やろうとも何回やろうとも、病気に対する治療や回復の取り組みをしなければ再び薬物を使ってしまう可能性が高くなります。自覚や意志のみではなかなかやめづらいのが依存症だからです。性依存症(性的嗜好障害)や窃盗症についても同様のことが言えます。
依存症が根底にあり罪を犯す方々には法的責任と回復責任があると考えています。依存症者だから法的責任が免れるわけではありません。しかし、司法等の場において罪を犯した依存症者に、回復の取り組みを考えない支援は再犯の防止につながりません。犯罪に⾄るプロセスの本 質を⾒誤っているからです。依存症者回復支援センター「エール」では、顕在化支援、回復支援、家族支援、地域連携の4つを柱に依存症に起因し罪を犯す方々の支援を行っています。
◎アルコール依存症と犯罪
アルコール依存症とは、反復的なアルコールの飲酒をコントロールすることが困難となり、肝機能障害や離脱症状(禁断症状)、職場や家庭へのトラブルがあるにもかかわらず、自分でアルコールを止めることができない病気です。
症状が進行すると、飲酒時に記憶がなく暴力(身体的暴力、精神的暴力、経済的暴力、性的暴力)をすることがあります。酩酊下での暴力は犯罪です。家庭内では、夫婦間だけでなく児童虐待や高齢者虐待の原因にもなります。また、女性のアルコール依存症者は、逆に暴力を受けやすい傾向にあります。
◎ギャンブル依存症と犯罪
ギャンブル依存症とは、経済的・社会的・精神的な問題があるにもかかわらず、ギャンブルを止めることができない病気です。ギャンブルが原因で作った借金を、ギャンブルで返そうという考えに陥ります。消費者金融、サラ金、ヤミ金などからの借金、失職、家族不和、うつなどの弊害を伴うことが多くあります。
症状が進行すると、公的な契約で借金をする先が尽きてしまい、違法にお金を集めようとする場合があります。その結果、家庭内窃盗、会社のお金や備品の横領、窃盗や詐欺などの違法行為をしてしまうケースもあります。
◎薬物依存症と犯罪
薬物依存症とは、違法薬物(シンナー、覚醒剤、大麻、コカインなど)をやめたいと思うのにやめることができない病気です。市販薬や、病院からの処方薬を乱用(本来のお薬の目的、使用方法、使用量が守れない)してしまうことも含まれます。幻覚・不眠・落ち込みなどの禁断症状(離脱症状)に苦しみ、やめたくてもやめられなくなります。また、違法薬物では一回使用して逮捕されるだけでは依存症とはなりませんが、逮捕されるまでに使用頻度が高まり、使用方法が大胆になって発覚され逮捕されるケースが多い印象です。
◎摂食障害と犯罪
摂食障害とは、女性に多い病気です。「やせてきれいになりたい」、「体重を落としたい」などという気持ちで始めたダイエットなどのストレスを原因に、体重や体型がひどく気になり、結果過食嘔吐を繰り返すと言われています。進行すると、自傷行為を繰り返したり、食べ物に対する価値観が変容し食べ物を万引することがあります。
◎窃盗症(クレプトマニア)と犯罪
窃盗癖(クレプトマニア)とは、物を盗みたいという衝動・欲求を制御できず、コントロールできなくなる病気です。盗った物は個人的な用途や金儲けのためには必要とされないことが多く、捨ててしまったり、隠したり、常に貯めておいたり、人にあげたりすることがあります。合併症として、過食症や買い物依存症が多く報告されています。
◎性依存症と犯罪
性依存症とは、性的な活動をしないと落ち着かない、生活に支障をきたしたり、不利益を被ってもなお、危険な性的な活動を繰り返したりしてしまう病気です。ギャンブル依存や買い物依存などと同じく「行動への依存」と考えられています。依存する対象は、相手のある性交渉だけでなく、自慰行為やポルノへの耽溺および収集、強迫的な売買春、痴漢、露出や覗き行為、インターネットを介したアダルト・チャットなど全ての性的な活動です。
◎ネット・ゲーム依存症と犯罪
ゲーム障害は2019年、世界保健機構(WHO)に新たな依存症として認定されています。依存状態になると、昼夜逆転や、学業・仕事への欠席、家族関係の悪化など日常生活にさまざまな支障をきたします。進行すると以下のようなケースに発展することがあります。
•オンラインゲーム/アプリゲームの課金による高額請求
•架空請求サイトによる詐欺被害
•SNSなど意識の薄い犯罪予告/犯罪勧誘
•違法サイトへのアクセス
•画像・動画配信被害(個人の特定・ストーキング・リベンジポルノ)